山椒大夫 Sansho The Bailiff [Cinema 映画]
感動感銘を受けて涙する経験を持たれた方はいらっしゃると思うが、この映画は私がボロ泣きした稀有な映画だ。
社会人になったばかりの若かりし頃、名古屋市内場末の映画館に出かけた。
もうその頃の邦画は斜陽になっていて、日活ロマンポルノとか、昔で言えばピンク映画が上映されるような映画館ではあった。
平日の午後、観客は労務者風のおっさんばかり。だが、上映作品は邦画界の巨匠、溝口健二作品2本立てであった。
溝口遺作の「赤線地帯」と「山椒大夫」である。だが、遺作の「赤線地帯」の印象がほとんど残っていない。
京マチ子とか若尾文子とか若かりし頃の美人女優が出演していて京マチ子とか妙に色っぽいなという程度の印象だった。
先に観たのは「山椒大夫」であった。
記憶になかったのだけど、少年時代の厨子王役は津川雅彦なんだそうだ。そうだったのか。
これは森鴎外原作の同名作品を映画化した不朽の名作であったが、この作品はベネチア映画祭で賞を受賞した程度の予備知識しかなかった。
だが、モノクロフィルムのスクリーンを観続けるにつけ、その中に吸い込まれるように感情移入していったのだった。
平日の午後、私は平安時代にいたのである。
山椒大夫 " Sansho the Bailiff " 1954 Opening
YouTubeでは英語でスーパーインポーズされたビデオ全編を?アップしてくれている人がいる。
オランダの人のようだ。日本の古典的名作に関心を寄せ、ビデオをアップしてくれた。ありがたいことだ。
さて、映画館の私。
スクリーンの中に溝口マジックで吸い込まれていた私は佐渡島まで主人公が訪ねてくる場面に、終幕が近いとは思っていた。
それにしても、不覚ではあった。厨子王が長い旅路の果てに遂に・・。
この場面で、私の眼から大粒の涙がこぼれ始めてしまった。それが止まらない。
それは頬を伝い、顎に一旦止まり、そして顎からポタポタと膝にまでこぼれ落ちていたのである。
感極まり、あ〜と思っている内に、「山椒大夫」は終幕を迎えてしまった。まずい、まずいではないか。
不覚にもボロ泣きしているこの段階で照明がついて、明るくなるなんて駄目だろう。
駄目だ、駄目だと思っている内に場内が明るくなってしまった。
あ〜、まずい、当時はやばいという言葉が流行る前だったと思う。今なら心の中でやばいと思っただろうが。
こんなことを書くと外国にいる私の知人は翻訳を読んでも何のことか分からないな。混乱するな。
眼は真っ赤である、たぶん。2本立てなので休憩時間だ。
「あ〜、恥ずかしいな、どうしよう」と思いつつ、左右を眺めたら労務者風のおじさんたちも何と涙を!こぼしていたのである。
あ〜、日本人だからな。その頃までは、まだ日本人には親子の絆というDNAが色濃く受け継がれていたのだ。
昨今の日本人、家族の有り様を見ると崩壊しつつある。そういう現代の親子はこの映画をもし観るならどう感じるだろうか?
もう涙をこぼす時代ではなくなっているかな。
まあ、お時間のある方はこのビデオを画面いっぱいに広げてご覧頂きたい。その場合は次のラストシーンを先にご覧ならないよう。
" Sansho the Bailiff " Ending
英語が分かる外国の知人にも暇があったら観てももらいたい。
ハリウッドのアクション作品に支配されたこの時代、もうこういうテンポの作品はほとんど出てこないから、そういう意味でも貴重だよ。
それにアクションを満喫して後に何も残らないフィルムより、心に沁み入る、記憶に残るフィルムはそれだけで価値がある。そう思うな。
2010-09-04 13:44
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山椒大夫!
子供のころ絵本で・・。
懐かしいです。ラストシーンがやっぱり泣けますネ・・。
by つなみ (2010-09-05 18:08)
つなみさん
そうですか、私も幼い頃に安寿と厨子王という子ども向けの
本を読んだ記憶がありました。
ラストシーンだけを観ると何のことはないのですが、
全編を通して観ると感極まるものがありましたね。
by 大黒屋 (2010-09-07 10:30)
小さい時に安寿と厨子王で話しを聞いて、
大きくなってから、山椒大夫のお話だって
知りました。
凄い話しですよね。
by youzi (2010-09-13 10:47)
youziさん
私も森鴎外を教科書で学んでそのことを知りました。
そんなもんですね。
by 大黒屋 (2010-09-13 18:07)